マーケティングにおける「カスタマージャーニー」をファンドレイジングに応用した「ドナージャーニー」という考え方があります。
ファンドレイザーは、「人々の善意を、団体への寄付行動につなげる橋渡し役」です。寄付者に素晴らしい「社会を変える旅」を経験してもらうための「ドナージャーニー」の考え方と、それを可視化する「ドナージャーニーマップ」の手法について考えます。
1.まず、「カスタマージャーニー」とは
「カスタマージャーニー」とは、直訳すれば「顧客の旅」。マーケティング施策を立てて実践する際の考え方のひとつで、顧客がどのように商品(製品やサービス)と接点を持って購買に至るのかという道筋を旅(ジャーニー)に例えたものです。
そして、顧客の購入までの行動や心理を時系列的に可視化したものを「カスタマージャーニーマップ」と言います。このマップに沿って適切な場所やタイミングで潜在的顧客に働きかけを行って、マーケティングの成果の最大化を図ろうとするのが「カスタマージャーニー」の手法です。
この「カスタマージャーニーマップ」は下記の手順で作成されます。
1)ペルソナの設定
はじめに、「旅人」として、「ペルソナ=ターゲットとする顧客像」を設定します。ペルソナは、ターゲットとなる顧客を分析して「特定の一人の人物像」に見立てたものです。旅人像が曖昧では、「旅のイメージ」もぼんやりしてしまいます。ペルソナが複数いるという場合は、複数のカスタマージャーニーマップをつくる必要があります。
2)フェーズの設定
購買に至るまでのプロセスと言い換えてもいいでしょう。一般的な購買行動では、「認知」、「情報収集」、「比較検討」、「購入」などのフェーズがあります。
3)フェーズごとの接点(媒体)を考える
ペルソナが商品と出会う接点(媒体)が何かを考えます。
4)フェーズごとのペルソナの行動を考える
ペルソナが商品と出会った際にどのような行動をとるかをフェーズごとに洗い出します。
5)フェーズごとにペルソナが考えていることを列挙
ペルソナの行動を洗い出したら、その行動に際しての彼、または彼女の思考(気持ちも含めて)を洗い出します。
6)課題の洗い出し
ペルソナの行動や思考が明らかになると、フェーズをスムーズに進むことの妨げになっている問題点が明らかになっていきます。
7)課題を解決するための施策を立てる
各フェーズの課題を解決する施策を考え、ペルソナがゴール(=購買)にたどり着きやすくします。
8)マップ作成
横軸には時系列にフェーズを並べ、縦軸には接点、行動、感情や思考、課題、施策が並びます。
参考までに、ここで一つ例をあげてみましょう。商品は、通販している関節痛に効く医薬品(架空のもの)です。
2.「ドナージャーニーマップ」をつくることの意義
ファンドレイジングにおいても、「カスタマージャーニー」を応用して、寄付者が寄付に至るまでの行動や心理を分析して、潜在的支援者に対する最適な働きかけをしていこうという考え方があります。これが、「ドナージャーニー」とよばれるもので、それを可視化したものが「ドナージャーニーマップ」です。
ドナージャーニーマップを作成するメリットは下記の3点です。
1)寄付者志向の団体としての共通認識が形成されること
寄付者の立場から団体を見ることの実践が、団体のファンドレイジング体質を強化します。
2)潜在的寄付者の明確化
ペルソナの設定は「潜在的寄付者」をより明確にするので、寄付者目線に立った適切な働きかけができるようになります。
3)合理的な寄付獲得施策
寄付者が何を考えているのか、どのような情報を求められているのかといった仮説を検証しながら、寄付者満足度を高めて関係性を深めていく取り組みが計画できます。
3.ドナーのペルソナ分析
ドナーピラミッドの考え方では、潜在的寄付者層の見極めが大切だとされていますが、ドナージャーニーマップを作るには、潜在的寄付者層より一層具体的に「こういう人=ペルソナ」を設定します。手順について考えてみます。
1)既存の寄付者の分析
個人情報を得ることは容易ではありませんが、既存の寄付者については、住所やメールアドレスといった連絡先情報以外にも、その人の属性(性別、年齢、職業など)がわかっている場合があります。また、寄付者像を明確にするために支援者対象にアンケートを行ってもいいでしょう。それらをもとに、寄付者との接点の多いスタッフの意見など取り入れながら、既存の支援者にどのような人が多いのか洗い出します。
2)既存の寄付者を参考にしつつ、潜在的な寄付者を考えます。支援者拡大のためには、「今と同じような人を増やす」ことがいいのか、「可能性のある新しい層に働きかけるのか」を検討しないとなりません。ターゲットとするペルソナは一人とは限りません。その場合は優先順位をつけてください。
3)ペルソナを決定
寄付者イメージを具体化するために、名前、性別、年齢、職業、住所、家族構成、趣味などを設定します。団体内でのイメージの共有のために「それらしき人の写真」などもいれて、ライフスタイルや価値観なども記載して仕上げます。
4.ドナージャーニーマップの基本型
一般的な購買行動では、「認知」、「情報収集」、「比較検討」、「購入」などのフェーズがあり「カスタマージャーニーマップ」の構成要素となります。
寄付においては、その「購入」の部分を「寄付」に置き換えるだけでなく、「共感によって社会を変える仲間になる」という寄付者のゴールへの道筋を盛り込む工夫をしてはどうでしょう。
例えば下記のようなフェーズを想定してみてはどうでしょう。また、団体の活動内容によっては、「参加」というようなフェーズがあってもいいかと思います。
その上で、カスタマージャーニーマップのように、接点、行動、感情や思考、課題、施策を考えていきます。
ここに、子どもの貧困問題に取り組む地域の子ども食堂にマンスリー寄付をする人のドナージャーニーマップを例としてあげます。(架空の団体です)
5.「MITAS」は旅の一里塚
ドナージャーニーは、潜在的寄付者が「ドナーピラミッド」を登って行く「旅」だと言えます。
以前、下記で支援者との関係性を構築して、寄付というアクションにつなげて、それをさらに深めていくために何をすべきかを「MITAS=満たすの法則」という形でご説明しました。
http://fundraising-lab.jp/archives/1132
「MITAS」は、「Moved(感動)-Interest(関心)-Trust(信頼)-Action(行動=寄付)-Share(共有)」 の頭文字です。この「MITAS」をドナーの旅の「一里塚」としてフェーズに用いてもいいでしょう。
団体のことを知って「感動する」。そして情報収集して「関心を深める」て「信頼する」。自分にもできることを考えて「寄付」という行動をとる。そして、社会の課題を解決する一員として、その推進のために自らも団体について「シェア」して伝えて行く・・・まさにドナージャーニーの主人公が旅への満足度を高めながら歩んでいく過程ではないでしょうか。
6.ファンドレイザーは「善意の旅先案内人」
「旅は道連れ」という言葉があります。
この言葉は、旅に大きな不安がともなった江戸時代に書かれた「東海道名所記」のなかに、「誰か一人でも旅の道連れがいるだけで安心して楽しく旅が出来る」と記載されていたことから生まれた言葉だそうです。
同行者がいると旅が心強く楽しいものになるように、世の中を変えていこうとする団体と寄付者が、互いに思いやりをもって助け合っていけたら、決して容易ではない課題解決活動にも勇気を持って、時には喜びとともに挑戦し続けることができるのだと思います。
団体と寄付者が良い旅の道連れになれるよう、ファンドレイザー努めたいものです。
ファンドレイザーは、「人々の善意を、団体への寄付行動につなげる橋渡し役」と称されます。文字通り「善意の旅先案内人」として寄付者により良い旅を経験してもらえるよう、「ドナージャーニーマップ」を活用してみてください。
そして、その旅は、「寄付して終わり」ではありません。「一度寄付をした」ことで、ペルソナのステータスは「潜在的寄付者」から「寄付者」に変化します。その「既存の寄付者」が、さらに繰り返しの寄付、大口寄付、さらには遺贈寄付といった支援を行ってくれる「次の旅」についても、フェーズやゴールを設定した「ドナージャーニーマップ」を作ってみてください。
社会を変える旅に終わりはないのですから。
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