コンビニや飲食店のレジのそばで募金箱を見かけます。無造作に設置され、時々小銭が入れられていく様を見ると「大した金額じゃないなあ」「何の意味があるのだろう」などと考えてしまいがちです。
でも、こうした募金箱がはじめての寄付の場であったり、日常的に目にする寄付の場だったりするのも確かです。そこで、3つのステキな募金箱を見ながら、NPOが募金箱を店舗や各種施設に設置することの意義やポイントについて考えてみます。
先日、募金箱についてネットで働く女性を対象にしたウェブアンケートの結果が出ていました。タイトルは「9割以上の女性がコンビニ募金しない!? 気になるその理由は?(2015年6月3日マイナビウーマン)」とありました。
それによると、9割以上の人がコンビニのレジ横の募金箱には寄付しないと回答しています。
Q.コンビニのレジ横に置いてある募金箱に募金しますか?
「する」……7.3% 「しない」……92.7%
そこで「しない」という人たちに理由を聞いたところ、「用途が明確でないから」という答えが多かったそうです。また、「する」と答えた人でも、おつりや財布の中に小銭がじゃらじゃらしていて、そこに募金箱があったから、あまり深い考えもなく入れたと答えています。何となく予想していた回答に近いものでした。
では、そもそも募金箱にはどのような意味があるのでしょうか。「箱」自体にも、設置依頼や回収にもコストがかかる募金箱をなぜファンドレイジングの一つの手法にするのでしょう。また、「9割の人が募金しない」といったアンケート結果がある中で、一定金額を得て採算をとるにはどんな工夫が必要でしょう。
まず、私が「ステキだなあ」と思った募金箱を3つご紹介します。
■ 公益財団法人日本盲導犬協会の「ラブラドール募金箱」
募金箱の形そのものが「盲導犬」で、一目で募金の目的が分かります。賢そうで可愛らしい犬自体がアイコンとなって、盲導犬への理解につながるのだろうと思われます。設置を申し込むと募金箱ツール一式として、募金箱だけでなく、配布物、ポスター、補助犬同伴可ステッカーが送られてくるというのも啓発を考えてのことでしょう。団体のウェブ上で細かな規程等も案内されています。
知名度の高い団体ということもあり、募金箱の側面に団体名や趣旨をはっきり示していることも安心感を与えてくれます。
■ NPO法人みんなでお城をつくる会の「木製募金箱」
「小田原城天守木造化」のための活動団体が、地元の商店等に設置をしているものです。「小田原藩の藩有林」に由来する杉の木材でつくられているそうです。こちらも「木造」の価値を形で表している点で、やはり広報効果を狙っていると思われます。
コストのかかっていそうな募金箱ですが、何と!この募金箱を設置するには3千円の寄付をしないとなりません。地縁組織や地元企業、商店街が中心となった活動だから可能な手法なのでしょう。まち全体で「天守木造化」のムーブメントを盛り上げていこうという気運を表すアイコンにもなっているのでしょう。サイトでは、盗難防止の紹介もしていて、「きちんと管理します」をアピールしています。
■ ドイツの慈善団体「Misereor」の秀逸なポスター型募金箱
まずは、この動画をご覧下さい。
これはドイツの慈善団体、Misereorのポスター型の募金箱です。「Mit 2€ viel bewegen(2ユーロで動かそう)」というキャンペーンで使用され、この動画は3年前のハンブルグ空港内のものです。
2ユーロを投入すると、そのコインがポスターの中を、ビー玉転がしのように動いていく仕掛けです。ポスター(箱)の底に到達するまでの間に、コインは、その使い道を表すいろいろなアニメーションを起動させます。
途中、デジカメで募金した人の写真を撮る仕掛けもあり、Facebookでシェアできるようになっています。QRコードでウェブへの導線もきちんと用意しています。こういう募金箱に募金をしたら、次は普通に寄付しようと思うのではないでしょうか。素晴らしいアイデアだと思います。
この団体はオンラインで “Just €2 a month to help children” (月額2ユーロで子どもたちを救える)というマンスリーサポーターを募っているので、かなり手のこんだ設計でコストをかけた募金箱ですが、十分に広告塔の役目を果たしているのだと思います。
この3つからヒントを得ながら募金箱のポイントを考えてみます。
1.広告効果
募金箱には広告塔の役割があります。実際、回収する金額は小さくともに非常的に団体のロゴや名称を目にすることで広報効果が期待できるというものです。そのためには、団体の活動をアピールするデザインを考えないとなりません。
盲導犬の姿、お城再建と同じ木製、寄付で実現できるものを表す「からくり」・・ご紹介した3つの募金箱は広報の目的を果たしています。
2.信頼性
小銭であっても、募金したお金が紛失したり、誰かに持ち去られたりすると思ったら誰も募金しません。また、そういう懸念をもたれると思ったら、店舗などは「場を提供」してくれないでしょう。
信頼性を高めるために、募金箱の設置についてのマニュアルや集計方法、管理方法等について、場を提供してくれるところに伝えるだけでなく、ウェブ等で公開しておく必要があります。また、お客さんからの質問に答えられるようなQ&Aの用意や、求めに応じて手渡せるチラシなども用意しておかないとなりません。
さらに、団体として、「どこに募金箱が設置されているか」「いくら寄付が集まったか」の情報もおりおり情報公開しておく必要があります。
3.採算性
通りがかりの人からの「小銭」がおもな寄付金となる募金箱の採算性を考えると、相当数の設置場所を確保しないとなりません。さらに、小銭をたくさん集めるには、多くの人の目にとまり、しかも小銭がやりとりされるレジ脇等に設置してもらうよう依頼せねばなりません。
仮に1日10人の人が5円募金してくれても、月に1500円しか集まりません。それで100カ所に設置できたとしたら毎月15万円。この数字をどう判断するかは団体のファンドレイジングの全体戦略の中で考えないとなりませんが、募金の回収方法や振込手数料の負担等によっては採算が取れないことにもなりかねません。
広告効果と採算性を考えて募金箱を設置するには、設置場所の邪魔にならず、かつ「これなら置いてもいい」と思ってもらえるチャーミングなデザインの募金箱を用意して、その管理の透明性(無理のないルール)を整えた上で、できるだけ多くの設置場所を得ることが大事なポイントだと思います。