遺贈は空から舞い降りてくるもの?

多くのNPOにとって、遺贈は縁遠いものだと思われているようです。「うちは有名な団体じゃないから」、「遺贈は大きな団体に”舞い降りて”くるもの」といった言葉を耳にすることもあります。実は遺贈は一般的な寄付からスタートして、少しずつ支援者との関係性を深めていくなかで実現できるものなのです。「舞い降りた」のではなく、「登つめた」ものなのです。そう考えてみると、どの団体でも地道な支援者コミュニケーションによって受けとることのできるものだという考えに至ります。

世界共通のファンドレイジングの考え方のひとつに、ドナーピラミッド、直訳すれば寄付者ピラミッドとよばれるものがあります。

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実際のピラミッドをイメージしてください。私たちに見えるのは地面の上ですが、実はその下に土台の部分があります。

左の図では白い下の部分が見えていない部分です。そういう人たちを「潜在的寄付者」と呼びます。そういう人たちが、団体の発信する情報に接して、一度目の寄付をしたとしたら、あるいは新規入会してくれたら、その段階で、見えているピラミッドの一番下の層に現れたことになります。

さらにその上には、繰り返し寄付をしてくれる人や継続会員、そして自動引き落としで寄付をしてくれるマンスリー会員といった人たちが位置します。

そして、その上に大口寄付者がいて、さらにピラミッドの頂点に遺贈者がいる構造です。

各層の人たちの中には、潜在的な寄付者が一気にその階層に現れるケースがあるかもしれませんが、ファンドレイジングの基本的な考え方は「ステップアップ」です。団体を知った人たちが、団体との関わりの中で共感度を高め、その結果、あたかもピラミッドを登っていくように支援度を増していくという考え方です。遺贈寄付は、そのピラミッドの頂点に位置するものです。

ピラミッドを登ってもらうには、ルートや働きかけが必要です。ルートがなければ登れません。ルートがあっても、「こちらにどうぞ!」といった案内や、「頂上からの眺めはいいですよ!」といった励ましがなければ登る気になりません。

では、潜在的な寄付者が頂点の遺贈に至るまで、皆さんの団体では、どのようなルートと働きかけが考えられるでしょう。

たとえば、ウェブを見てくれた人にメルマガ登録してもらう・・・その人たちへ無料イベント開催を告知して招待する・・・・イベント参加者へのアンケートで得た氏名と住所宛に寄付キャンペーンや入会のご案内を送る・・・・寄付者へはお礼や報告をきちんとして、さらなるお願いをする・・・新規会員には継続依頼をして、できればマンスリー会員になって継続的な支援をしてもらう・・・そして、長年の支援者や大口寄付者には、年次活動報告書とともに遺贈のご案内パンフレット送る・・・などピラミッドを上がってもらうための、段階別の働きかけができるでしょう。

以前、芸術団体が受けた遺贈寄付の話を聞きました。その団体に、ある日、突然「1000万円」の現金の遺贈寄付が舞い込んできたそうです。それまで、遺贈寄付をうけることがそれほど多くなかったそうで、びっくりしたスタッフが遺贈者の名前を確認すると、事務局の誰も聞き覚えのない名前だったそうです。

そこで、名簿をさがしてみると、長年にわたって会員だっ人、しかも会員の種別の中では小口の会員をずっと続けていた人だということがわかりました。スタッフ全員、「お名前も覚えていなかった方が遺贈寄付してくださった、何だか申し訳ない」という気持ちになったそうです。

私は、その話を聞いたときに、「申し訳ないなんて!」と思い、「素晴らしい団体なんだろう」と思いました。

その1000万円の遺贈寄付をなさった方は、長年の会員としての人生の中で、「この団体を応援したい」という思いを強めてこられたのだと思います。それは、会員継続依頼の際のちょっとしたメッセージかも知れませんし、イベントに参加した時のスタッフの対応かも知れません。毎年届く活動報告書を読んで団体への期待を高めていったのかもしれません。その積み重ねが、遺贈という人生最後の最大の支援につながったのだと思います。そういうコミュニケーションを長年にわたって、ごく自然に行ってきた団体って素晴らしいと思います。

遺贈寄付は、「突然、空から降ってくる」ものではありません。地道な支援者とのコミュニケーションによって、支援度がステップアップしていった挙句にもたらされるものです。逆に言えば、どんな小さな団体でも、支援者を大切にし、支援度を少しでも上げてもらう努力を続けていたら得られるものです。どうぞ、遺贈について積極的に取り組んでいってください。

そして、遺贈の受け入れのために必要な準備については、以下をご参照ください。
遺贈寄付〜これだけは欠かせない6つの準備〜

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