行動経済学から学ぶファンドレイジング


78167_254x191NHKで放送された、行動経済学の第一人者、デューク大学のダン・アリエリー教授「お金と感情と意思決定の白熱教室」を視聴して、ファンドレイジングにも活かせるヒントを5つ得ました。

この「お金と感情と意思決定の白熱教室」は、行動経済学の第一人者、デューク大学のダン・アリエリー教授がサンフランシスコで行った全6回の集中講義で、2014年春に放映されたものが、昨年12月から1月22日まで再放送されました。

ダン・アリエリー教授は、人間を「合理的に行動する存在」として考える従来の経済学では説明がつかない、「お金・感情・意思決定」にまつわる人間の奇妙な行動パターンをユニークな実験で明らかにしてきた学者です。

この「白熱教室」でも、節約しているのにバーゲンで無駄な買い物をしてしまう、ダメと思いつつ甘いものを食べてダイエットに失敗する、行列の店は美味しいと決めかかって並ぶ、危険を承知で運転中にスマホのメールを読んでしまう、無報酬なら喜んで人助けをするのに少ない報酬だとやる気が失せる・・・といった人間の不合理な行動のパターンを解き明かすことで、社会の様々な問題を人間の不合理性を逆手に取って解決するにはどうしたらいいのかを受講生とともに考えていました。

そのなかで、5つほど、ファンドレイジングにも応用できると思われるトピックがありましたのでご紹介します。

1.人は決定の際に「デフォルト(何もしないでいい初期の設定)」を選ぶ
ヨーロッパでは国によって死後の臓器提供の意思のある人の割合が大きく違うそうです。その理由として、アリエリー教授は「オプトイン・オプトアウト方式」の違いをあげています。

生前、本人が臓器提供をはっきりと拒否していた場合のみ、臓器の摘出を断念する「オプトアウト型」をとっているフランス、ベルギー、オーストリアなどでは100%近い人が「臓器移植の意思あり」とされているそうです。他方で、本人が臓器提供を明確に認めている場合だけ臓器の摘出を認める「オプトイン型」のイギリス、ドイツ、オランダなどでは30%以下の人しか「意思あり」としていないそうです。

**「オプトイン」は事前承認を必要とするやり方です。あるサービスを受けたり、ある情報を提供する際に、ユーザー側が事前にその件を承認して、初めて事態が進行します。(何もしないと、いわゆるデフォルトでは『No!』ということ。)これに対して「オプトアウト」は、事後承認型です。何らかのリストに事前了解なく掲載されるが、それが構わなければそのままにし、いやならば削除してもらいます。(何もしないと、いわゆるデフォルトでは『Yes!』)こういうのが「オプトアウト」で、「事後承認」というより、正確には「事後不承認」を意味します。

臓器提供という、簡単に決められない事柄でも、人は「デフォルトに添う」「デフォルトがお勧めだと理解する」のだとアリエリー教授は語っていました。

もっと日常的な話題として、ネットでピザのトッピングを選んで注文する際、一方は「生地にのせるトッピングをリストからクリックして選ぶ」、もう一方は「全部のっている前提のピザから、いらないものをクリックして取り除く」ようになっているとしたら・・・後者の方がトッピングの多いピザが注文されていくという例もあげていました。

要するに、「選択までの道筋の楽な方」が選ばれやすいということです。

ファンドレイジングでも、寄付募集のウェブページで「一口3000円から」として、デフォルトを「3000X1」にしたら、3000円の寄付が多くなるのでしょう。では、「一口3000円から、できたら2口以上でお願いします」として3000円X2をデフォルトにしておいたらどうでしょう?

想定する寄付者(金額)層に応じて、金額のデフォルト設定をよく考える必要があります。

また、「本当は解約したいのに有料チャンネルや新聞の購読をしている人は?」との問いかけに受講生の多くが挙手していました。これは、マンスリー会員の重要性を意味するものです。前に、ある団体の寄付募集ページのデフォルトが「マンスリーサポーター」になっているのを見たことがあります。こういう工夫も大事なのでしょう。

2.人は周囲に同調する
ホテルの宿泊者のタオルの再利用についての実験結果があげられました。「環境保護のためにタオルを再利用して下さい」という札を客室においても、あまり効果がなかったのに、「このホテルの75%の人がタオルを再利用しています」と掲げたら再利用率が20%ほど上がり、「この部屋に泊まったお客様の75%が・・・」としたら、35%ほど上がったそうです。

要するに、「皆がしている」という「社会的証明」が有効で、その「している人」について身近に感じるほど同調したくなるということです。

寄付を募る際にも、すでに多くの人から、できれば、訴求する相手が身近に感じる人たちから、「すでにご寄付いただいています」とアピールすることが必要です。支援者の応援メッセージを団体パンフレットに掲載するのも効果的でしょう。

また、「皆が応援している」ことを見える化するには、「ブログ」や「SNS」などソーシャルメディアがうってつけです。団体のFacebookのページに「いいね」をたくさん得ることや、Twitter のフォロワーがたくさんいることも「社会的証明」の一つになると思います。

3.行動を決定するのは感情
1)問題が大きく長期化すると関心が小さくなる
「世界で起きた大災害や世界規模の病気等に対してアメリカ人が寄せた寄付金の内訳」のグラフが紹介されました。寄付と被害者数には負の相関があるのだというグラフです。ハリケーン・カトリーナや911テロの被害者に対して送られた寄付の方が、より多くの死者の出ているエイズやマラリアに対する寄付より多いという統計結果です。アリエリー教授は、「大事件が起こると急激に感情が高まって寄付が集まる。一方でマラリアやエイズは長期的な問題で感情が急激に積み上っていかないから。」と解説していました。

ファンドレイジングでは、いかに団体の取組んでいることが「今、起きている危機的なこと」であるかを伝えていかないとならないということでしょう。

2) 物事を統計的にとらえると感情のスイッチが切れる
興味深い実験結果が紹介されました。①アフリカの国のロキアという名前の子どもの生活が困窮している話をして寄付を募る、②その国の貧困問題を話して寄付を募る・・・結果は、前者の方の寄付金額が2倍となったそうです。

さらに、この実験では、①を話して、続けて②を話して寄付を募ったそうです。その結果は、②だけの時ほどは低くなかったものの、①だけの時の額にはおよばなかったとのこと。感情に訴える方法と統計を使う方法は両立しないと。これ、チョット意外な結果でした。

ファンドレイジングに際しては、感情に訴えることと「誰のために」ということがわかることが大事だということでしょう。問題の深刻さを訴えようとして統計データで説明することが逆効果になったりすることもあるということです。

感情のスイッチを切らないために何をしたらいいのか・・・感情に訴えるストーリーの主(先の例ならロキアちゃん)の写真等を掲げながら統計的な資料を見せていく、あるいは、話の最後に、もう一度ロキアちゃんの話をして感情のスイッチを入れ直してもらう・・・そういう工夫が必要なのだと思います。

アリエリー教授は、寄付についても言及していて、感情に訴える言葉や画像、支援者に「支援者と団体」ではなく、「支援者と受益者」がつながっていると感じてもらうことなどが必要だと話していました。

4.心の中にはいくつかの「財布」がある
人の心の中には「心の会計」と呼べるような、用途ごとに別々の財布があるそうです。この財布ができるとその用途についての支払いについて悩まなくなると。ローンをかかえている人が、たくさんの貯金がたまってもその貯金をローンの返済に回そうとしないのもそのせいだそうです。心の中に「いきつけのカフェのコーヒー用の財布」ができあがれば、毎日コーヒーを買うたびに「これは適正な支出か否か?」と悩まなくなるという例もあげられました。

ラスベガスは現金をチップにかえないと遊べませんが、これも現金をチップにかえた途端、心の中で別の新しいサイフとなり、このチップはなくなっても大丈夫と考えてしまい、引き際も考えずにお金をすってしまうのだと。チップというツールによって、カジノは儲かるようにできているのです。

寄付についても、皆が心の中に「寄付のための財布」をもってもらえるといいですね。個々の団体のレベルでいえば、マンスリーサポーターや会員のような継続的な寄付者には、適切な寄付者コミュニケーションによる関係性の構築によって、「心の中の財布」が出来上がっているのだと思われます。

さらには、子どもの頃から「寄付をする」という習慣をもてば、それが「心の中の財布」として定着して、年齢や収入に応じて金額も増えていくでしょう。寄付についての教育が重要です。

5.「無料」の魔力
価格ゼロというのは、恐ろしく魅力のあるものだという話もありました。「価格ゼロ」がある市場では、無料が当たり前と考えられるようになってしまう恐ろしさがあると。無料が1ドルになった時の「不愉快さ」は、5ドルが6ドルになるときより大きいのだということです。

NPOは助成金や補助金の事業で、本来なら有償で提供していいものを無料で提供したりしがちです。セミナーや書籍等、本来なら有料でも参加・購入する人がいるものを無料でいったん提供してしまうと、助成終了後に自主事業で適正な価格で提供しようとした時に「何でだ!」と思われてしまうことがあります。「無料」の魔力には要注意です。

この「お金と感情と意思決定の白熱教室」は書籍にもなっています。

ダン・アリエリー教授には、「予想どおりに不合理」、「ずる-嘘とごまかしの行動経済学」、「不合理だからすべてがうまくいく」(いずれも早川書房)などの翻訳図書もあります。関心のある方はご一読なさってみてください。