スチュワードシップという考え方

無題海外のファンドレイザーは「スチュワードシップ(stewardship)」という言葉をよく使います。10年以上前のことですが、米国からファンドレイジングの専門家が来日した時に初めてその言葉を耳にして、話の脈絡から、「それって寄付者に対するお礼のことですか?」と尋ねたら、「う~ん、それも含まれます。」と言われ、「じゃあ、お礼と報告のことですか?」と聞き返したら、「う~ん、合っているけど、それ以上のものです。ファンドレイジングで最も大事なことです。」という答えが返ってきました。

そして、ファンドレイジングにおける「スチュワードシップ」という言葉の意味は、寄付者に感謝して、寄付者との約束を守って、寄付者の期待に応えるように寄付金を有効に使い、それをきちんと報告して、次の支援につながるようにするということ、しかもファンドレイジングを成功させるものという以上に、ファンドレイザーの寄付者に対する責務だと教わりました。「スチュワードシップ」を直訳すれば「受託者責任」となるのでしょうか・・・。

以来、ファンドレイジングについて学んだり、私自身が解説したりするようになってからも、私は、この「スチュワードシップ」という言葉の日本語訳が見つからず、その概念を小分けして考えたり、お伝えしてきました。

「ファンドレイジング」という言葉すら一般的でなかった時に、「ファンドレイジングにおいて最も大切なのはスチュワードシップです。」みたいな言い方は、ファンドレイジングの輪を広げていく時にいかがなものかなあと感じていたのも本音です。

ただ、最近、この「スチュワードシップ」という言葉が日本でもファンドレイジングの現場で定着するといいなあと考えるようになりました。

そこで、今回はスチュワードシップの概念に含まれている5つの要素で考えてみます。

1.お礼
2.倫理を守る
3.評価
4.報告
5.次のお願い

1.お礼
寄付者に対するお礼は、寄付を受け取ったらできるだけ早くしなくてはなりません。まずは「言葉」によるお礼、すなわち受領確認とともにお礼状を出すことです。

感謝はお礼状のように文字であらわすだけでなく、「カタチ」で表すことも大事です。「カタチ」の場合、金額の多寡にかかわらず、ウェブや機関誌に寄付者の名前を掲載して称える、イベントに寄付者が参加時に受付名簿に印をつけておいて、「xxxさんですね。ご寄付に感謝しています。」と一言添える、といったことができるでしょう。さらに、寄付額によっては、イベントに来賓として招待する、名前を施設のどこかに掲げる、感謝状や団体グッズを贈るといったこともできるでしょう。

人は感謝されると、自分が誰かのためになったことを嬉しく思い、また次の機会に「何かしてあげよう」と思うものです。これが、寄付に関する「成功体験」になり、更なる支援にもつながります。寄付者との関係性の構築の第一歩として忘れてはならないものです。

2.倫理を守る
寄付金に込められた「善意」を頂いたからには、使途を限定した寄付の場合には使途を勝手に変更しない、活動資金としてできる限り有効に使うことに努めるといった誠実さが求められます。

ファンドレイザーとしての倫理規定については、日本ファンドレイジング協会が国際標準に準じて策定した「ファンドレイジング行動基準」がありますので、ご参照ください。http://jfra.jp/news/1641

3.評価
寄付者に対して、「がんばってます!」、「がんばりました!」と言うだけでは、寄付者の期待に十分に応えたことになりません。具体的に、支援者からの寄付金によって何を達成したのかを定期的に評価して、それを次項の「4.報告」に盛り込んでください。

「すぐに成果を数値化して表せるような単純な社会課題じゃない」と思われるかもしれませんが、団体の活動成果を表す何らかの指標を見つけて、折々にその変化(達成度)を検証することは団体の成長にもつながるものです。団体の取り組む社会課題を知ってもらうための啓発用のチラシを何人の人に渡せたか・・などというのも立派な成果指標になると思います。

4.報告
寄付者は、「自分の寄付がどう使われたのか?」を知りたいものです。そもそも、寄付というのは、社会の課題の解決を「自分に代わって確実に実行してくれる人たち」に託すお金です。「託した」のですから、その結果を知ることは、寄付者の権利とも言えます。

そこで、寄付者に対して、寄付によってできた事業についての報告をしなければなりません。事業の進捗上、最終的な報告ができない場合でも、一年以内には何らかの中間報告がないと、寄付者自身が寄付をしたことを忘れてしまい、継続的な支援につながらなくなってしまうでしょう。
「3.評価」で出てきた数値に加えて、寄付者に「寄付をして良かった」と実感してもらうためには、活動現場の写真などを盛り込んで、寄付金の使途や、その成果がビジュアルに示されることが大事です。

5.次のお願い
「一度寄付してくれた人にまた寄付をお願いするのは申し訳ない」と考える必要はありません。寄付者は、感謝や報告のやりとりから、団体との絆を、そして社会課題の解決活動に参画していることの意義を実感してくれます。ですから、たとえすぐに次の寄付をせずとも、団体に「期待されている」ことは決して不愉快ではないのです。むしろ、「頼まれるのを待っている」と考えてもいいかも知れません。

前の寄付で何が達成できたかをお礼とともに伝えた後なら、次のお願いに対して、「そうか、また応援しよう!」と思ってくれるでしょう。

これら、寄付を受けた側として果たすべき「スチュワードシップ」は、やること、タイミング、方法を決めあておいて、団体の通常業務に組み込んで「もれなく」行えるようにしておくことが大切です。

そのためには、データベースの整備が必要です。丁寧なコミュニケーションを図るには、単なる寄付者名簿ではなく、個人について過去の支援履歴やコミュニケーション履歴も包括的に管理できる支援者データベース、DRM:Donor Relationship managementの導入が必要になります。

※支援者データベースについては、NPO向けに無料・廉価でサービスが提供されているので、そういうものも活用なさってはどうでしょう。下記に2例をあげておきます。
■セールスフォース■
http://social-force.jp/about/
■マイクロソフトダイナミクスCRM■
http://www.jnpoc.ne.jp/?page_id=4020

1.お礼、2.倫理を守る 、3.評価、4.報告、5.次のお願い・・・といった「スチュワードシップ」はすでに多くの団体で寄付者に対して実行されていると思われます。そのうえで、さらに、「スチュワードシップ」という言葉によって、一つの概念で共有され、それが定着して、実践されていくといいなと思います。

 

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