米国では、理事について“3G Philosophy – Give, Get, or Get Off!”と言われています。寄付をし(Give)、寄付を集め(Get)、それができなければ立ち去れ!(Get off)ということです。「理念(Philosohy)」というより、「掟」みたいな厳しさを感じますが、それほどにファンドレイジングについて理事の役割が重要だとされています。
他方、日本のNPOの理事会は、団体の運営を管理するという責務を果たしてはいても、ファンドレイジングについては「事務局の仕事」と考えがちです。日本の理事会にもっとファンドレイジングに関わってもらうにはどうしたらいいのか、3つの役目「日本版3G」と7つのポイントにまとめてみました。
1.日本の理事会の “3G Philosophy”とは
まず、日本で “3G Philosophy”というなら、最後の “or Get Off!=さもなければ立ち去れ!” はちょっと馴染まない気がします。
そこで、“3G Philosophy”を “ Give(寄付する), Get(寄付を集める), or Go to Office(それが無理でも事務局サポート)”にしてはどうでしょう?
1)Give 寄付をする
以前、アメリカで雑談の際に、“ある団体から理事になれって頼まれて・・どうせ私のお金が目当てなのよ。”という話を聞いて、冗談だったのかもしれませんがビックリしました。
この話は極端だとして、理事=寄付者という意識は日本でも定着させていいと思います。ただし、「すぐに、たくさん寄付しないとダメ!」というような形でなく、いくつかある寄付のメニューの中から金額や対象を選んでもらえるように働きかけ、それを繰り返す中で「寄付するのも理事の務め」と思ってもらえるようにしていきたいものです。
2)Get 寄付を集める
理事は人脈や社会的な立場のある人が就任することが多いので、寄付集めに協力してもらいたいものです。ただ、色々な団体に関わっていたり、多忙だったりする理事に「やる気」になってもらうには、後述のポイントを押さえておかないと、「できたら、やるわ・・」と言うだけで実行してもらえません。
3)Go to Office 事務局サポート
ファンドレイジングの基本は「Ask (依頼)」と「Thanks(感謝)」ですが、これを理事がすることで、依頼された側、お礼された側の印象は変わります。事務局作成の定型文に理事の手書きの「依頼」や「お礼」のメッセージが書き添えてあったら、「ゴミ箱直行率」が下がると思います。
実は私はルーブル美術館のサポーターですが、館長さんや理事長からの短いメッセージとサイン付きの美しいカードとかが来ると、大事にとっておいたりします。で、ついつい継続してしまいます。
また、社会的に地位のある理事が企業訪問等に同行してもらえたら、先方も、それなりの立場の人、決定権を持った人が対応してくれ、話も進むでしょう。直接的に寄付をしたり、寄付を集めることが苦手な理事にも、こういう形で大きな貢献をしてもらえます。
2.理事にファンドレイジングに関わってもらう7つのポイント
1)ファンドレイジングに協力して欲しいと伝えて就任してもらう
「何もして下さらなくていいので、とにかく理事になって下さい・・」というような就任依頼をしていたら、寄付もファンドレイジングへの協力も頼めません。ファンドレイジングに限らず、就任依頼書・承諾書などで団体への貢献について明文化したものを交わして、就任してもらうのがいいと思います。
2)多様な人材で理事会を構成する
様々な立場の人たちがいることで、能力や人脈も多様になり、それがファンドレイジングに活かせます。「経済界に顔が利く」というような人はもちろんですが、団体の取り組みに関する実績や専門性のある人なら、その人の情報発信で潜在的支援者層への訴求もできます。
3)ファンドレイジングの意義を共有する
ファンドレイジングは、単に活動の資金を調達するということではなく、資金を募る過程で、多くの人たちに社会の課題について関心をもってもらい、活動に共感を抱いて課題の解決に参画する人たちの輪が広がるのだという考え方を共有してもらいましょう。理事は団体のスポークスマン、それによって「共感」が集まるのだと考えてもらえば、「お金集めか・・気が重い・・」という気分も払拭されると思います。
4)具体的に「やってもらいたいこと」を伝える
「寄付集めて下さい!」と言われても、実際に何をすればいいのかわかりません。また、理事によって、得手不得手や向き不向きもあるでしょう。個々の理事に対して、それぞれの特性や意向をふまえて、具体的に何をしてもらいたいのかを伝えておく必要があります。
寄付金集め以外にも、チャリティーイベントでの会場の無償提供や有名ゲストの招聘など、間接的にファンドレイジングにつながることで力を発揮してもらえる機会はいろいろあるはずです。
5)ツールを渡しておく
団体理事としての名刺や、団体案内パンフレット、寄付募集の案内などを渡しておけば、機会をのがさず寄付依頼をしてもらえるでしょう。「こういう団体の理事になっていて・・」と話題にしてもらうためにも、名刺は必須。また、それ自体が理事にファンドレイジングについてのリマインドになるでしょう
6)理事と事務局の連携をはかる
理事がファンドレイジングする場合、事務局との綿密な連携が不可欠です。依頼の後のフォロー、入金確認、お礼のタイミングなど、事務局の方から理事にこまめに連絡をとって、寄付者に対して不手際のないようにすることが必要です。
また、理事会にファンドレイジング担当理事を設置するものいいでしょう。ファンドレイジングの進捗などについて統括する役どころの理事がいることで、ファンドレイジングが理事会にとって重要な課題だということを自覚してもらえると思われます。
7)理事間の交流をはかること
年に数回の会議に出席するだけ・・という理事会では理事の理事会への帰属感が醸成されません。理事同士が交流する機会、たとえば会議の後のお茶会や食事会等で交流してもらうことで、情報共有や役割の確認が自然とはかれると思われます。もし、何も貢献していない理事がいたら、チョット肩身が狭くなるかもしれません。苦労して貢献をした人は、そのことを話題にすることで他の理事を鼓舞してくれるかもしれません。「みんなでファンドレイジングもしっかりしよう!」という「文化」が育まれる場を設ける必要があります。
さて、最後に、「ラボの仲間」の長浜洋二さんの有名なブログ「飛耳長目:アメリカにみるNPO戦略のヒント」のなかに、「米国NPOの理事会に対する低い評価とファンドレイジングへの期待 (2014年11月25日)」という、とても興味深い記事が掲載されていますのでご紹介します。
この記事は、米国のNPOの理事会におけるリーダーシップ、理事構成、ポリシー、実務などに関する調査「Leading with Intent 2014: A National Index of Nonprofit Board Practices」をもとに書かれています。
この調査結果によると、ファンドレイジングについて、1994年の調査時には、理事の60%が寄付をしてましたが、2014年にはそれが85%にまで増加しているそうです。そして、60%の事務局長が、ファンドレイジングこそが最も理事会が貢献すべきことだと答えているそうです。実際、寄付をお願いするためのレターや電話に関して対象者のリストを提供した理事は平均で42%、対面で潜在的な寄付者と会った理事は平均で22%、直接寄付をお願いした理事は平均で26%にとどまっているそうです。“3G Philosophy – Give, Get, or Get Off!”のプレッシャーがあっても、なかなか動いてもらえないという現実もあるのでしょう。
理事になる人たちは、自ら寄付をしてもらうことに加えて、能力、社会的影響力、信用力や人脈を活かして寄付集めにも動いてもらいたいものです。理事のファンドレイジングへの貢献が大きく期待されます。