おすすめ図書『NPOのためのIT活用講座』

日本最大の公益事業コミュニティサイト「CANPAN」を企画運営するCANPANセンターの理事で、全国で数多くのNPOのIT活用に関する研修に登壇されている久米信行氏と山田泰久氏の共著「NPOのためのIT活用講座」をご紹介します。すぐに役立つ「実用書」としてお薦めしたい本ですが、読み終えると市民活動の原点についてあらためて考える機会にもなりました。

すべてのNPOに共通するミッションは、ひとりでも多くの人に社会の課題に関心を寄せてもらい、その解決策に納得してもらって、自分にできることを見つけて解決活動に参画してもらうこと。自ら活動団体を立ち上げる、活動団体で働く、ボランティア活動に参加する、会員になる、寄付をするなど方法はいろいろあるでしょうが、その最初のステップは「知る」ことです。そうなるとNPOは「知ってもらうための努力」、伝える努力をしないとなりません。さらに、その情報が社会に拡散されていくことも求められます。

そうは言っても伝えるための情報発信に費やすことのできる資金、労力には限りがあるのが現実です。そこで、著者は「IT活用は、NPOの可能性を拡げる万能薬」だとして、多くの事例とともに無駄な手間とコストをかけずに、ITのいろいろなツールを活用していくことがいかにしてNPOの活動と業務に大きな効果を上げるかを解説してくれています。

ホームページ、ブログ、ソーシャルメディア、メール、メーリングリスト、オンライン決済、データベース、クラウドファンディング・・・それらについての解説書は多々ありますが、NPOの活動にどう活用できるかという視点でまとめられているところが秀逸です。これを読んで、「これをしっかりやっていこう!」と気づいたらさらに専門書を読んで導入する、あるいは今のやり方を最適化してみるといいと思います。

同書の中で私が注目したのは、第2講の「NPOは “個人”×”組織” の情報発信力で加速する 」。団体が公式アカウントで発信すべき話題と、団体のメンバーが個人的に発信すべき話題についてきちんと整理してくれています。FacebookやTwitterをするのが当たり前のようになってきたこの頃ですが、NPOの場合個人の強い想いやこれまでの体験(ストーリー)が毎日の勤務の根底にある場合が多いだけに、公私の使い分けに悩むことも多いと思われます。私自身も多々あります。そういう人にとって、考えるいいヒントがつまっています。ある種のルールみたいなもので公私を使い分けていくというのでは楽しいソーシャルメディアの世界が窮屈に感じられてしまいますが、ここでは、相乗効果を生むという視点なので、それも嬉しいです。

最後に「ファンドレイジングこそ、最大の情報発信」ということが書かれています。資金を募る過程で、団体と人々がつながり、共感の輪が広がって寄付やボランティアといった支援者が増える、あるいはちょっとした生活習慣や他人への態度を変えるということが、社会を、そして未来をより良いものにすることだと考えていますが、まさに本書に書かれているITの活用がそこに欠かせないのだと思います。