顔の見える団体になろう 〜泣き顔?笑顔?〜

「人は人に寄付する」と言われています。社会の課題の解決を願って寄付をする人は、その課題によって厳しい状況に追い込まれている人、課題解決活動に取り組んでいる人、その活動で厳しい状況を克服した人への共感から寄付をするということを意味しています。そして自分も含めた「人々」が構成する現在の社会、未来の社会がよくなることを願っています。

「人」は言い換えると「顔」です。「顔が見えない・・」というのは存在感の希薄さによって不安感を招いてしまうと思います。そこで、だれの顔を、どんな顔を見せたらいいのか、考えてみます。

1.だれの「顔」を見せられるか

団体にはいろいろな人たちの顔があります。だれの顔が見せられるのか、主な6つの顔を挙げてみます。

 

1)理事の「顔」
「どんな人が責任のある立場で活動しているのだろう?」というのは、支援を検討する人にとって知りたいことのひとつです。肩書きも大事ですが、顔を見せることで責任感を表すことにもなります。

2)スタッフの「顔」
スタッフががんばっている姿は、「応援しよう」という気持ちにさせられるものです。スタッフの紹介、事務局内のスナップ写真や活動現場の写真は、親近感と活動の「リアリティ」を感じさせるものでもあります。まさに、「顔の見える団体」の効果です。

3)受益者の「顔」
自分の支援がどういう人たちの役に立つのかを実感してもらえます。ただ、プライバシーへの配慮から受益者の氏名や写真を公開することが無理な場合も多々あります。そういう場合は、写真でなくイラストでもいいと思います。「顔」とうのは顔写真を意味するばかりではありません。仮名の受益者の「メッセージ」であっても十分に「顔」となり、支援者に訴えかけるものとなります。

4)寄付者・会員の「顔」
どんな人たちが寄付をしているのかも実は知りたいところです。ある意味、自分も「仲間」になるわけですから。また、「なるほど、こういう気持ちで応援しているのか」「こういう点を評価して長年会員でいるのか」ということで、支援の気持ちの後押しをしてもらえます。

5)ボランティアの「顔」
惜しみなく労力と時間を提供するボランティアが沢山いるというのは、その団体の価値を理解する人たちが沢山いるということの証です。ボランティアに対する敬意から、自分はボランティアはできないが資金を提供することで応援しようと思っていただけます。

6)その他支援者の「顔」
助成元であったり、企業協賛であったり、組織として支援してくれているところがあるというのは大きな信用にもなります。その担当者のメッセージとともに「顔」をみせることができたら何よりです。もし無理でも、団体、企業のロゴなどは掲示しましょう。多くの場合、助成元や企業は支援元としてのロゴのウェブなどでの掲示を求めてきます。そうでなくても、こちらから依頼して掲載したいものです。ロゴは団体・企業の「顔」ですから。

2.どのような「顔」をみせたらいいか

社会の課題の中でつらい思いをしている人たちがいることは目を背けられない現実です。NPOはそういう人たちの状況を改善するための活動に邁進している訳です。厳しい現実が立ちはだかる現場では、怒り、悲しみ、苦しみ、戸惑いといった表情の「顔」がたくさんあるに違いありません。

途上国の貧困に苦しむ地域の子ども達の悲しげな表情、その現場で怒りに満ちた表情で仕事をするスタッフ、そうした姿が現実なのは確かです。では、寄付等の支援を募る際に、そういう「顔」を見せるのがいいのでしょうか?

少し遠回りに考えてみます。 NPOには2つの大きな役目があると思っています。

1)社会の課題を伝えること
ひとつは、社会の課題を人々に伝えること。日常生活の中ではともすれば見過ごしがちな社会問題やそこでつらい思いを強いられている人たちがいること、これを知ってもらい、何らかの形で解決に協力してもらうことです。

社会の課題を解決するためには、NPO活動に直接参加しなくても、「人々の価値観」「生活様式」を少しだけ変えてもらう必要がある場合が多々あります。たとえば、環境保全なら、環境に配慮した商品を選ぶ、買い物時には自分の買い物袋を持参する・・・そういう小さな一人一人の変化が社会を変えていくに違いありません。そのために、NPOは伝え続けていかなくてはなりません。

現場で活動するものだけが知っていることを、ある種の危機感とともに伝える、いわばジャーナリスト的な役割を担っています。

2)活動を持続・発展させていくこと
もうひとつの役目は、自らの専門性を活かして課題解決活動を発展させていくことです。ある小さな地域で始めたことが良い成果を生んだとしたら、仲間を増やしてそれを拡げていく。見過ごされていた課題に光が当たり、つらい思いをしていた人たちに笑顔が戻ってきたとしたら、その笑顔を拡げ、持続させなくてはなりません。そして、そのためには寄付・会費、ボランティアといった、活動に対する直接的な支援が必要となってきます。いわば、社会から共感のこもった資源を集めて持続的な団体運営を行うことが強く求められるのです。

では、どのような「顔」を見せたらいいか・・・話を戻しましょう。

まず、1)の場合、厳しい現実を伝えるには、どうしても「つらい顔」「悲しみに満ちた顔」「怒る顔」が主役になりがちです。報道写真などにもそういう顔や姿が登場します。そして、そういう被写体を見て、はじめてその課題を知り自分の価値観に影響を受ける、支援しようと思う人も出てくるでしょう。苦しみや悲しみや怒りへの共感です。

では2)の場合はどうでしょう? 広く一般から継続的に支援を募る場合、人は苦しみや悲しみや怒りに共感し続けるのは、もしかしたら少しつらくなってしまうのではないでしょうか。厳しい現実は理解した上で、そこから生まれる希望、笑顔に期待することで、「自分にもできることがあればしよう!」という気持ちになるのではないでしょうか。「笑顔」「安らぎ」「楽しさ」といったイメージに共感するということです。

私の考えですが、結論から言えば、NPOには1)も2)も重要なので、「どちらかだけ」で訴えるというのではなく、両方をきちんと伝えて支援を募ることが重要だと思います。

ただし、ここで、支援者の方たちが生活者であるということを思い出して下さい。地域で学校に通い、仕事をし、家族に尽くし、友達をつくって日常生活を送る人たちです。彼らにも、苦しみや悲しみや怒りが日常生活の中にたくさんあるはずです。そういうなかで、さらに社会に貢献しようと考えたとき、「希望」を感じさせるものが求められるのではないでしょうか。

つまり、広く一般から継続的に支援を募る場合、そこで見せる顔が、始めに挙げた6つの顔のいずれであっても、笑顔、楽しそうな顔、幸せそうな顔、といった明るい未来を期待できるものが欠かせないと思います。

今回のサブタイトルに「〜泣き顔?笑顔?〜」とつけましたが、広報ツール等でどちらを前面に出すか、これは、団体自身が、活動内容、社会的周知度、団体の方針などで決めることだと思います。

ただ、ひとつ申し上げたいのは、厳しい現実のなかで、時には苦悶するNPOで活動する活動者自身が、活動の中でふと垣間みた笑顔、ふとわき上がった笑い声、安らぎ、喜び、幸福感、達成感、こうした気持ちを伝えながら仲間(支援者=寄付者)を募っていっていただきたいということです。

逆に言えば、厳しい現実を知る人だからこそ見せることのできるポジティブなメッセージのこめられた「顔」、真実を知る人だからこそ語れる共感ストーリーの主役達の「顔」があるのだと思います。そして、それこそが、子ども達の未来のために希望を抱いて寄付をしようと考える人の心に、もっとも強く訴えかけるものだと思います。