「ファンドレイザー」ってどんな人?

ファンドレイザーは、「社会のために何か役に立ちたい」と思っている人たちと「社会の課題を解決している人たち=NPO」をつなぐ人です。ファンドレイザーの働きかけによって、「直接、課題の解決に向けた活動はできなくても、自分にかわって確実に自分の思いや考えを実行してくれる人たちに託す」お金が寄付や会費といった形で提供されます。その善意に応えるように資金が使われているかを確認するのもファンドレイザーの役目だと思います。

そして、「寄付してよかった」と思っていただければ、「また寄付してみよう」ということになり、この小さな積み上げが日本の寄付市場の拡大につながります。ファンドレイザーは、まさに日本の寄付文化の醸成、欧米に比べてまだ発展途上とも言われている寄付市場を拡大させる人たちです。

最近、NPO関係者の方々と名刺交換すると、肩書きに「ファンドレイザー」と書かれたものをよく頂くようになりました。では、「ファンドレイザー」とは具体的にどういう人、どういうことが期待されている人たちなのでしょう・・・考えてみましょう。

「ファンドレイザー」を「資金調達家」のように直訳すると、あたかも一匹狼でNPOの資金調達を請け負う人のように感じられますが、実際には、日本のみならず、海外においても、非営利団体の中で職員として働いている人がほとんどです。職員数の少ない団体でしたら、事務局長がファンドレイザーの役目を担っていたり、あるいは、広報担当者が兼務しているというケースも多々あります。

一方、最近は日本でも、団体と契約して複数の団体のファンドレイジング業務を担う独立系のファンドレイザーも登場しています。このラボを運営しているもそういう仕事をしています。

ファンドレイジング業務の一部分、例えば街頭での対面型ファンドレイジングやテレマーケティング、ダイレクトメールといった分野で専門知識を活かしてファンドレイジングを請け負う会社もあります。

また、ボランティア・ファンドレイザーとして複数の団体のファンドレイジングを担っている人もいます。それでも、一般的には、「ファンドレイザー」というのは、「職業」ではなく、組織の中の「肩書き」として名乗られているのがほとんどだと言っても過言ではないでしょう。

そうは言っても、NPOで働く人がだれでもすぐにファンドレイザーという役目を果たせるかと言うと、それは難しいと思えます。戦略的にファンドレイジングを行って成果を上げるには、ファンドレイジングの全体像を理解して、実施に必要なツールやノウハウを知っていること、さらに、倫理観や能力や実務経験が求められます。
*別記事「ファンドレイジングの体系を学ぶということ」もご参照ください。

世界各国に「認定ファンドレイザー」といった資格制度があるのも、また、様々な研修、国際大会等が開催されているもの、そうした知見、最新情報を共有して「ファンドレイザー」としての能力を磨くことが必要だとされているからです。

日本では、日本ファンドレイジング協会が「認定ファンドレイザー資格制度」を運営しています。その制度の中で、同協会では、「ファンドレイザーに求められる5つの能力」として下記をあげています。

准認定ファンドレイザーテキストより

准認定ファンドレイザーテキストより

ちなみに、この制度は、各種研修と検定試験から成り立っていますが、一定の研修を受講してから「認定・准認定ファンドレイザー」の資格獲得のために受験するのは、知識の定着に有効だと思います。また、「認定ファンドレイザー」になるためには、試験合格だけではなく「ファンドレイジング行動基準(後述)」を守ることを宣誓することから、社会的な信用も得られます。

では、この5つの力を解説します。

1)ファンドレイジングの知識とスキル

先日開催された「ファンドレイジング・日本2015」の基調講演に来日された、国際的ファンドレイザー認証機関CFRE(Certified FundraisingExecutives)Internationaの会長のエヴァ・アルドリッヒさんは、ファンドレイジングについて「学び続ける」ことが大事だと言われました。新しいツールや手法も生まれています。20年前には誰もITを活用した「クラウドファンディング」なんて想像できなかったでしょう。人々の生活や価値観も変化していくものです。変化する社会のなかで、団体自体を「適応・進化」させながら支援者拡大を図るためには知識を蓄え、スキルを磨くことがかかせないということです。また、ファンドレイジングには、団体の活動分野や規模を超えて共有できる「体系」があります。以前、この「3分間ファンドレイジング講座」で、「ファンドレイジングの体系を学ぶということ」というタイトルで詳しく書きましたが、こうした「体系」を把握しておけば、知識や経験を蓄積したり、他に伝えることが容易になります。

2) 誇りと倫理を守る姿勢・誠実さ

人様のお金を取り扱うだけに、というより「善意」を頂く者として倫理感が求められます。具体的には日本ファンドレイジング協会が国際標準に準じて策定した「ファンドレイジング行動基準」が日本にもありますので、ご参照ください。http://jfra.jp/news/1641

また、ファンドレイジングは単に活動資金を集めることではありません。資金を募る過程で、社会の課題と人々がつながり、共感の輪が広がって、解決のための寄付やボランティアといった支援者が増える、あるいはちょっとした生活習慣や他人への態度を変えるということが期待されます。誇りと自覚を持ってその役目を果たしていただきたいと思います。

3) 対人コミュニケーション力

「人は人に寄付をする」とも言われています。誠意を持って伝える姿勢、「伝える気持ちと、相手にわかってもらえる伝え方」が支援者拡大には不可欠です。一方的に「語る」「依頼する」のではなく、相手の気持ちをくみ取るために、相手の知りたいことを知るために、相手の言葉に耳を傾けることも大切です。

また、ファンドレイジングは一人ではできません。組織内の関係者、会計、データ管理、広報担当者等と連携して実行されるものです。団体内でも良好なコミュニケーションを図らねばなりません。

4)マネジメント・コーディネーション力

先項3)でも書きましたが、ファンドレイジングは「チーム」で実行するものです。また、2)で書いたように、きちんとした行動基準を守るためのリーダーシップも求められます。団体内の他のスタッフ、理事会、ボランティアなどがよいチーム力を発揮できるようにするためのマネジメントとコーディネイトの力が求められます。

5)ファンドレイジングの実行・実践力

ファンドレイジングは知識ではなく実践してはじめて成果が生み出されるものです。学問ではなく実務です。国際的ファンドレイジング認証「CERE(Certified FundraisingExecutives)」では、試験に加えて一定の有償実務経験が条件となっています。日本でも「准認定」には求められていませんが、上級の「認定ファンドレイザー」のためには3年間の有償実務経験が求められています。その理由がここにあります。

スライド2さて、ここまで書いていて、この5つの能力は、「社会を変えるために必要な力」だと言い換えることもできると気づきました。「ファンドレイジングの知識とスキル」を「課題解決の知識とスキル」におきかえたら、まさに、「ファンドレイザー」は「社会を変える人たち」と同義語だと思えてきました。逆に言えば、NPOでがんばって成果を生んでいる人たちは、ファンドレイジングの知識とスキルを得れば、優れたファンドレイザーにもなり得るのだと思います。

 

ファンドレイジングの知識とスキルについての研修が各地で行われるようになってきました。そうした機会を活かしながら、ファンドレイザーを目指す人、ファンドレイザーがいっそう活躍して、社会の中の「善意の資金循環」に貢献されることを期待してます。

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