遺贈について~現状・課題・そして展望~


00遺贈は人生最後の最高(=最幸)の社会貢献だと思います。また、団体にとってもドナーピラミッドの頂点に位置づけられるものです。時間を超えて思いを次世代に託す寄付のカタチ=遺贈が日本社会に広まることを願ってやみませんが、現実にはまだ一般化していません。そこで、今回は、日本の遺贈の現状と課題、そして展望について、各種データをもとに考えてみます。
1. 現状
自分の遺産について、その一部でも社会のために残してもいいと考えている人は結構おられるようです。日本ファンドレイジング協会の「寄付白書2011」では21%の人が、そして国境なき医師団日本の「遺贈に関する意識調査2015」では26%の人が遺贈について前向きな考えをもっていると報告されています。01

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にもかかわらず、実際に遺言を書いているひとは、「遺贈してもいい」と思っている人の中でも、たったの3.9%という調査結果があり、結局は思いが実現されないままになっているという現状があるようです。
03日本における相続市場の規模は、年間の税収58兆円とほぼ同じ50~60兆円ではないかという推計もあるなかで、遺贈寄付の推進は日本の寄付市場の拡大に大いに期待されるものの現状は「まだまだ」という感じです。

2. 課題
では、なぜ日本において遺贈が進んでいないのでしょう。その理由として下記の2点があると思います。

1)遺贈実務に対する理解が不十分(遺贈する人、受け入れ団体の双方)
2)どこに寄付していいかわからない

この2点は国境なき医師団日本の調査結果にも表れています。
04誰に相談していいかもわからず、これまでの生活の中で縁のなかった弁護士さんに相談するのも気が重く、結局何もしないままになってしまうのでしょう。また、これまで、NPOの会員になったり寄付をした経験がなければ、どこに寄付したらいいのかも悩んでしまうでしょう。

また、受け入れ側のNPOにとっても、遺贈してもいいと言ってくださる支援者がいたとしても、「具体的な手続きについて説明できない」、「不動産なんか遺贈されたらどうしていいのかわからない」、「全財産寄付しますと言われて、もし借金まで引き継ぐことになったら大変」、「遺族とのもめごとは避けたい」、といった、知識不足からくる漠然とした不安があり遺贈の受け入れに消極的になり、ましてや「遺贈寄付も受け付けています」などと表明できません。

3. 展望 ~遺贈が社会にひろがる可能性~
では、この先、日本社会では遺贈は進まないのでしょうか。私はこれからきっと遺贈というものが社会貢献のひとつの選択肢として定着していくと思っています。

以下に5つの根拠をあげさせてください。

1) 生涯未婚率の増加
いわゆる「おひとりさま」が増えているというデータがあります。男性の20.1%が、女性の10.6%が生涯未婚でいるというのは、40年前には考えられなかった現実です。結婚についても価値観が多様化しているからでしょう。そういう中で、自分の財産が死後に自動的に国庫に行ってしまうより、社会の課題解決に具体的に活かしたいと思う人は増えていくと思われます。
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2) 遺言作成者の増加
まだまだ絶対数が多いとは言えなくても、遺言作成者が増加しているという現実があります。日本公証人連合会によれば、この10年間で遺言作成者が1.5倍になっているそうです。
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また、少子高齢化の中で、いわゆる「終活」が話題になってきているなか、公正書としての遺言書でなくても、エンディングノートなどで相続財産の一部を支援している団体に寄付してほしいという意思を伝える人も増えてきているのではないでしょうか。

3) シニア世代の社会貢献意識の高まり
日本ファンドレイジング協会の「寄付白書2,015」によれば、70代では6割が「寄付をした」と答えています。それは20代の3倍にあたります。経済的なゆとりがあるというのも理由でしょうが、やはり、年齢とともに社会への恩返し、次の世代に役立ちたいという気持ちが高まってくるのだと思います。
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4) 相続基礎控除額の引き下げ(2015年)
平成25年度税制改正で、相続税が実質増税となりました。特に、基礎控除の引き下げによって、これまで相続税とは無縁だった人にも相続税がかかる可能性が出てきました。節税目的の寄付というのはいかがなものか・・と思われるかもしれませんが、ここはポジティブにとらえてみてはどうでしょう。実際、国境なき医師団日本の調査で、この税制改正について説明したうえで、親族からの相続財産について「課税されるなら、(課税されないように)認定NPO法人に寄付したい」と答えた人が4割いました。
08自身の遺志で、あるいは相続人として、使い道を希望できない税金より、「こういうことのために」という意思を込められる寄付を選ぶ人が増えると思います。

5) 遺贈に関する専門家の知見が集約され共有されてきている
先月、環境団体への遺贈を積極的に推進する目的で、日本環境法律家連盟が「みどりの遺言」というプロジェクトを開始しました。http://jelf-justice.net/ このプロジェクトでは、環境問題に取り組んできた全国450名の弁護士が参加していて、一定基準を満たしている環境団体をリストアップして遺贈先として推奨するというものです。

「NPOのための弁護士ネットワーク」も、勉強会などで遺贈をテーマに取り上げNPOへの知識の伝播、弁護士間の情報共有を図っています。http://www.npolawnet.com/

また、日本ファンドレイジング協会は一昨年8月より、弁護士、税理士、公認会計士、司法書士、行政書士、NPO関係者からなる「遺贈寄付推進会議」を設置して議論を重ね、NPO向けのハンドブックの発行し、各地で研修を行っています。(私もメンバーです)

さらに、今年は、全国コミュニティ財団協会とともに「全国遺贈寄付(レガシーギフト)推進検討委員会」を運営し、遺贈寄付普及に向けた「論点整理」を公表して意見募集を行っています。
※この論点整理への意見は、8月15日18時まで受付中です。http://jfra.jp/news/12756

こうした遺贈に関する専門家の知見が集約され共有されることで、人生最後の社会貢献として、遺贈という選択肢があることが広まることが期待されます。

遺贈というカタチで、善意の資金が未来に向けて循環していくことが望まれます。

なお、受け入れ団体の皆さんが何から始めたらいいかは、下記もご参照ください。
遺贈寄付〜これだけは欠かせない6つの準備〜