ビジョン、ミッション、ストラテジー、そして・・・

NPOに不可欠な「V.M.S」。最近流行の頭文字ネタのようですが、ビジョン、ミッション、ストラテジーを意味しています。なぜ「V.M.S」が大事なのか、今さらのように思われるかもしれませんが、考えをまとめてみました。そして考えているうちに、もうひとつの「S」の大切さにも気づきました。そうなると…「V.M.S.S」になりますね。

さて、NPOの活動を登山に例えてみましょう。著名な登山家が「なぜ山に登るのですか?」と質問されて、「そこに山があるから」と答えたという話がありますが、NPOで活動する人たちも、それぞれの動機につながるストーリーはいろいろあっても、「なぜ活動するのですか?」と聞かれたら、「そこに解決すべき課題があるから」と答えるのではないでしょうか。数多くの険しい山々があり、困難があり、それでも登山家が登頂するように、NPOの人たちも挫折しそうになっても、時には引き返したり回り道をしても、果敢に課題解決に挑戦しています。チームを組んで挑戦していくという点でも、登山と似ていますね。

では、登山に欠かせないものは何でしょう。目指す山頂、そこに登るのだという意思、そして登頂計画。この3つが不可欠です。目指す頂上がわかっていて、そこに立ったときの感動や見渡せる風景がイメージできなくてはやる気は出ませんし持続しません。また、登りたい!という強い気持ちがなければそもそも登山なんかできませんし、どんなに意欲があっても、きちんと考えた計画無しに出かけたら遭難してしまいます。

これをNPOに置き換えると、「目指す社会像=ビジョン」「目指す社会の実現に向けて課題を解決していくこと=ミッション」、「戦略=ストラテジー」、ではないでしょうか。これらが、NPOに不可欠な「V.M.S」なのです。

1.ビジョン

ビジョンは一言で言えば「実現したい将来像」だと思います。それは山も頂上のように、遠くにあろうと、前人未到であろうと、自分たちがすすんでいく先にあるもので、登山ルートが変わろうと、登山チームのメンバーが変わろうと、不変的に存在するものです。

NPOがビジョンを掲げる際も、それはある種の「夢」のように聞こえるもので良いと思います。「子育て支援のために病児保育の拠点をつくりサービスを提供する」というのはビジョンではなく、後述のミッション。ビジョンなら「親子がいつも笑顔でいられる社会をつくる」みたいなものではないでしょうか。

ただ、あたかも山頂に雲がかかってしまうように、ビジョンは見失われがちです。「vision」と同じ「見る」を意味する「vis」という語根からできている「visible=見える」ということが重要になります。活動メンバー、そして支援者もビジョンによって勇気づけられ鼓舞されるのではないでしょうか。登山家が目指す山の写真を壁に貼ってトレーニングをするのと同じです。

2.ミッション

NPOはミッションを定款等で明文化しています。ミッションは「使命、任務」などと訳されますが、まさに、組織の役割。どのような課題を解決していくのか、誰にどんな価値を提供するのかを具体的に定義したものです。

ある意味「夢」のように思われがちなビジョンは、このミッションによって実現可能な世界観に変わっていきます。「世界の平和」をビジョンに掲げていても、それだけでは、「人類の歴史に戦争のなかった時代はないのに・・」等と絶望的に思われてしまうかもしれません。しかし、「子ども達への平和教育をおこなう」とか「民間の国際交流で相互理解をはかる」というようなミッションが提示されると、ビジョンに向かって何とか前進できる、ということが理解でき、そこに参画しよう、支援しようという人々の輪が広がっていきます。

さて、山頂を目指す登山家チームは「登っていく」ことがミッション。ただ、山頂を目指すことイコール山を登るというのは、今は疑問の余地のないことですが、遠い未来に、かなり荒唐無稽に聞こえるかもしれませんが、宇宙ステーションが人類の暮らすところになって、山頂に到達するために、「空から降りてくる」のが普通だと言うような時代が来たら、このミッションは見直され、「降りていく」ことになります。

要するに、ビジョンは不変的なものであっても、ビジョンとの整合性が保たれながら、ミッションは団体によって多様であったり、同じ団体でも時代の中で変わっていったりする可能性があります。

3.ストラテジー

ビジョンの実現のためにミッション達成を達成するには戦略的な取り組みが欠かせません。

余談になりますが、「ストラテジー=戦略」という言葉を使うと、軍事用語ではないか・・好戦的で嫌だ…という人がいます。もっともな感想です。実は私もそういう気持ちを抱いて、「長期的な総合計画」みたいな表現に変えていたことがありましたが、最近は「戦略的」という言葉を使っています。年齢を重ねて社会の不条理さを見続けたせいか、社会の課題の解決は「戦い」なのだと思うことが増えてきたからです。他者を打ち負かす戦いではなく、社会をゆがめる人類の弱さとの戦いだと。

NPOにおいては、団体の状況、団体を取り巻く社会の状況をきちんと把握し、ミッション達成には何が足りないのか、足りないものはどう補完すれば良いのか、何をすべきかを考え、策定した中・長期的な計画に基づいて活動を展開しないとなりません。山登りをするのに、体力も考えず、装備も整えず、地図も用意せず、天候も考えず、無計画に登山を始めたらどうなるでしょう?無駄な回り道を強いられるばかりか、遭難してしまうでしょう。

4.もうひとつの「S」はスローガン

以前、「From 0 To 8848 エベレスト」をスローガンとした韓国の登山遠征隊が、海抜高度0メートルの海水面の高さから8848メートルのエベレスト頂上までカヤック・自転車・徒歩・クライミングによって、無動力・無酸素登頂を果たしたというニュースを聞いて、特に登山に大きな関心がある訳でもないのですが、「From 0 To 8848 エベレスト」という言葉が耳に残り、記憶に残っています。

団体の理念や、活動の目的を、簡潔に言い表す「スローガン」は、覚えやすく伝わりやすいものです。たとえば「No More War」、素晴らしいスローガンです。言葉のチカラでしょうか、志をひとつにするために、自分達の主張を社会に端的に訴えるために、スローガンを持つことも大切だと思います。

スローガンというとデモや集会のときのシュプレヒコールを思い出されるかもしれませんが、そういう場で無くても、活動者、支援者がふと思い出して心の中で唱えられるようなものがあったら、連帯意識がたかまるのだろうと思います。実際、私は仕事中に、日本ファンドレイジング協会設立時から掲げてきた「寄付10兆円!」という言葉で自分を鼓舞することがあります。

皆さんの団体の「V.M.S.S」を一度再確認なさってみてはいかがでしょう。